まだPowerPointでチラシを作っているんですか?|時代に迎合する前に考えること

前回、と言っても8カ月ほど前の話ではあるのだが、こんなエッセイを投稿した。

なぜ人はチラシをWordで作りたがるのか|PowerPointという忘れられた最適解

世の中には「WordとExcelがあればすべて事足りる」と信じて疑わない人がいる。けれど、チラシやポスターを作るなら、もっと自由な道具がある。WordでもExcelでもない“第三の選択肢”の心地よさを、もう一度見つめ直してみませんか?

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WordやExcelで無理にチラシを作るくらいなら、PowerPointを使えば良いのに、というボヤキである。なかなか挑発的な記事を書いたものだなと思う傍らで、私は変わらず、PowerPointで様々な成果物を作り続けていた。しかし、この8カ月の間、いささか状況が変わったので、内情を綴ることにする。


「まだPowerPointで資料を作っているんですか?」という挑発的な広告

ターゲティング広告のひとつとして、こんなネット広告を見かけることが増えた。恐らく、この広告を見るのは私だけだ。私のためにパーソナライズされた広告なのだが、だからと言っても、なかなか挑発的な物言いである。

もちろん、これも狙ってこのような表現にしているということは、重々分かっている。これは単なる機能紹介ではなく、「時代は変わっていますよ」という空気を作るための広告なのだろう。PowerPointやOffice関連をよく触り、資料作成やデザイン系の情報を見ている私に向けて、「そろそろ乗り換えませんか?」と投げかけているのである。実に現代的な広告だ。

実際、今はCanvaのようなデザイン制作ツールを使えば、チラシもポスターも驚くほど簡単に仕上がってしまう。テンプレートを選べば、それなりに整ったものが数分で完成する。あとは必要に応じて、画像やイラスト、文字を差し替えるだけだ。

これは本当に便利である。

そんな広告を、最初は「まぁ、そういう時代だよなぁ」と我関せずという立場を貫いていたのだが、いよいよ業務でもCanvaを使うよう指示が出た。

業務だから当然である。

私情は多少あるものの、別に嫌というわけではない。むしろ、「そこまで言うなら触ってみようではないか」と、少し遊び感覚で使い始めた。

すると、驚いた。確かに便利なのだ。


Canvaは本当に優秀だった

Canvaには大量のテンプレートがある。しかも、ただ数が多いだけではない。配色もフォントも、余白の取り方も、最初からかなり整っている。PowerPointで毎回ガイド線を引き、図形を揃え、余白をミリ単位で調整していた人間からすると、かなり衝撃的だ。

写真を置けば、それっぽく整う。
文字を入れれば、ちゃんと見栄えがする。

PowerPointのように、余白を1ミリ、いや0.5ミリ…いや0.1ミリ単位で調整し続ける必要もない。文字間隔や行間隔を固定値で微調整する必要もない。写真素材を別サイトから探し回る必要もない。必要なものが、最初からかなり揃っているのである。

しかもCanvaは、“迷わせない”。既に綺麗に見えるレイアウトがあり、配色候補も絞られている。どれを選んでも、大きく失敗しにくい。

つまり、「最適解を選ばせる」のが、とても上手いのだ。

これは時間がかからないだろうなぁ、それに品質も一定に保てるだろうなぁ、と素直に思い、そして唸ったのである。これは業務にもってこいである。

便利なものは使えば良いし、効率化できるなら、その恩恵は受けるべきだと思っている。…のだが、デザインも任せてしまう時代に、なんだか物悲しさを感じているところである。時代はもうとっくに、PowerPointだけで全部やろうという時代ではないのだ。だからこそ、私にあんな挑発的な広告がパーソナライズされたのである。皮肉な話である。


PowerPointは「不要」なのか?

一度、穿った見方をした方が良いだろう。奇しくも得意分野である。
見出し通りの問いを立て、しばし思案することにした。

ひと通り操作を行い、実際にチラシを作ってみると、圧倒的にCanvaは便利であることは認めざるを得ない。経験も技術もほぼ不要で、品質が保たれている掲示物を、短時間で仕上げてしまえるのだから。業務が多い立場上、力を借りるのも大いにアリだとは思う。

便利であることは疑いようもないのだが、PowerPointが不要なのかと問われると、ニュアンスが少し違うのだと思う。おそらく、苦労する必要がなくなった、と表現する方が、状況をより捉えられるだろう。

構成から検討し、どこを目立たせ、何を削り、どのように配色して作るのか。そんな作業を永遠と調整していた時間は、Canvaをより「便利」と思わせるには十分なのだが、決して「無駄」ではなかったように思う。

どこまでも白く、レイアウトはおろか、スライドサイズさえも自分で決めろと突き付けてくる、どこか不親切で、どこまでも自由で、どこまでも責任を負わせるような、効率だけを考えるなら恐ろしく悪いPowerPoint。しかし、あの非効率の中には「考える」という、確かに主体的な自分がいたように思うのだ。


これからの時代の「贅沢品」

便利だと嚙み締められるのは、大変だった経験をしているからこそで、その経験がないまま利用してしまうのは、妙に恐ろしく感じられてしまう。

綺麗なテンプレート、文章の構成や表現方法も、「分からない」という時点から寄り添ってくれるCanvaに、非常にありがたさを感じる中で、私たちは「考える」という行為を無意識に手放しすぎているように思う。

考えなくても、ある程度の正解にたどり着けてしまう。整ったものを最初から提示され、自分で構造を組み立てる場面が減っていく。

もちろん効率は悪ではないので、限られた時間で成果を出さなければならない以上、利用するべきである。これからも状況に応じて、このようなデザインツールを使いながら生きていくのだろう。未来はもっと、快適であるようだ。

そんな中で感じた物悲しさは、考えなくても良い世界を受け入れる最後の砦の様だと感じている。

作り出す過程で「考える」こと、生み出す過程で「悩む時間」があったこと。整うまでに何度もリテイクがあり、突き付けられる現状に何度も悔しい思いをしたこと。PowerPointと歩んだものは、そんな非効率の中にあった、自分の成長できるポイントだったのかもしれない。

確かに、時代の主役ではなくなったのかもしれない。それでも、思考し、不便な中で、自分の責任で、形作ることの面白さと苦労は、忘れたくないものである。

CanvaでもPowerPointと同様に、真っ白なキャンバスから、作品を仕上げることができる。どこまでも白い世界で、「あなたはどうしたい?」と突き付けてくる条件を揃えることができるのだ。必要に迫られたら、試してみて欲しい。テンプレートの便利さを感じていただけると思う。

いつか、PowerPointを開かなくなる日が来るかもしれない。その時に私は何を思うのだろう。楽しみであり、少し怖くもある。

<エッセイ>


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