
世の中にはどういうわけか、「WordとExcelがあればすべて事足りる」と信じて疑わない人がいる。
文書ならWord、数字ならExcel。それで十分で、それ以外は要らない。その姿勢には頷ける部分もあるものの、同時に「そこまで拘らなくてもいいだろうに」と思うことがある。チラシやポスターをWordで作ろうとしている様子を目にすると、心の中で「PowerPointで良くないか」とぼやくのだ。
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文書、数字に続く、第三の領域
Wordは、文書作成に特化した優秀な道具だ。長文整理、章立て、目次の自動作成など、まさに文章のためにある。
一方のExcelは、数字の管理、計算、データ管理など、分析を任せたら右に出るものはいない。数字を誰でも扱うことができるように、様々な便利機能が備わっている。
WordもExcelも、なくてはならない存在なのは確かだ。しかし…しかしである。だからといってチラシまでWordで作らなくても良いだろう、そう思うのだ。ページに無理やり画像を配置し、文字の大きさを調整して、余白に苦しみながら「あれ?レイアウトがずれた」と頭を抱える姿を見ると、なんだか不憫に思えてくる。
Wordは文章作成の道具。そう思っている私にとって、デザイン重視のチラシを作成するのは、ギャップに耐えかねているように見えるのだ。
Excelの場合はさらに独特だ。チラシを作ろうとして、セルの中に文字や図形を詰め込み、セルの幅を調整しながら配置を整えていく。
何もExcelに固執することもないだろうに、と思うのだが、「慣れているから」という理由でしがみつく人は意外にも多いのである。
私はこうした姿を見るたびに、「PowerPointが楽なのに」という言葉を飲み込んでいる。
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Canvaの“借り物オシャレ”より、PowerPointの自由な混沌
ここまで読んでいる人の中にも、「変なことを言う人だな」と思われているかもしれない。だが無理もない。PowerPointはチラシやポスターのために存在しているわけではなく、プレゼンテーション用の道具だからだ。
新規で開けば白いスライド、Wordのようだが、残念ながら文字は直接入力できない。あるのは果てしない「余白」である。
上下左右の制約もなく、文字や図形を好きな場所に配置できる。スライドの外にさえ配置できてしまう。全てが自分の裁量に委ねられられているなかで、Wordのような段落ルールがあるわけでもなく、Excelのようなセルもない。PowerPointはひたすらに、「で、どうしたいの?」と問いかけてくるのである。
今の時代、デザインはCanvaに任せる方が、“タイパ”が良いのは重々承知している。Canvaは確かに便利だ。テンプレートが豊富で、フォントや配色も洗練されている。少し加工すれば、初心者でも数分で“オシャレ”に見える作品が仕上がるのだ。SNS向けの画像を量産するなら、Canvaは圧倒的に早い。その利点は認めざるを得ないだろう。
しかし、どうにもしっくりこない。Canvaはテンプレートに沿って走る世界。完成度の高いひな形を用意してくれているのはありがたいけれど、あくまで綺麗に見えるだけ。枠に囚われた“借り物のオシャレ”なのである。(もちろんそれがウケの良いこともあるので否定はしない)
私はPowerPointの、この「どうしようもない自由さ」が好きなのだと思う。いや、正確には「自由さの中に自らで秩序をつくる」作業が心地よいのだと思う。難しいことを言っているようだが、どうもこれがしっくりくるようだ。
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忘れられた第三の選択肢は、実は最適解だった
WordやExcelには、それぞれが得意とするものを活かす一方で、ある程度の秩序が守られている。その秩序に従う限りは、窮屈さが付きまとう。一方、PowerPointは「あなたが作り出さなければ何も生まれない」という、果てしない余白を突き付けてくるのだ。だからこそ、自分の思想やイメージを作り出す場として最適なのだ。そしてその感覚に、かれこれ10年憑りつかれている。
学生時代から私は、発表スライドはもちろんのこと、研究ポスター、アンケート用紙、メッセージカードの作成、年賀状のレイアウトまで、ひたすらPowerPointで作成してきた。周囲には奇妙に見えたことだろう。「まだPowerPointを使っているの?」と嘲笑されることもあった。だが私にとっては、これほど自分自身を自由に表現できる環境はない。
Wordは文書のためにある。Excelは数字のためにある。そしてCanvaは「見栄えのために」用意されている。そのいずれもが立派だ。だが私は、そのどれにも完全には馴染めなかった。私は自分の秩序で、自分の思考を置いていきたい。与えられた型ではなく、白紙から組み立てたい。PowerPointは、そのわがままをもっとも自然に受け止めてくれる。気付けば私にとってPowerPointは、「第3の選択肢」ではなく、「第1候補」なのだ。
もちろん、PowerPointにも限界はある。長大な文章をまとめるのは苦手だし、複雑な数値処理はExcelに任せるべきだろう。万能ではない。それでも、見せるためのチラシやポスター、ちょっとした案内カードのように「視覚で伝える」ものを作る時には、PowerPoint以上に合理的な選択肢はないと思っている。
不思議なのは、PowerPointがこれほど手軽で柔軟であるにもかかわらず、多くの人がそれを「発表専用ソフト」と思い込んでいることだ。WordとExcelの二択しか存在しない世界で、PowerPointは忘れ去られた影の存在になっている。私はそれを見ていると、どうにももったいない気分になる。
WordにはWordの領分があり、ExcelにはExcelの居場所がある。だが、そのどちらにも収まりきらないものが確かに存在する。そうした「居場所を持て余した作成物」のために、PowerPointはもっと使われていい。チラシをWordで苦心して作るのも、Excelで無理やり整えるのも悪くはない。だが、その苦労を引き受ける必要はない。PowerPointなら、もっと気楽に、もっと柔軟に、形にできるのだから。
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世の中の常識がどうであれ、私はこれからもPowerPointを選び続けるだろう。WordやExcelを否定するつもりはない。むしろ尊敬している。ただ、チラシを何もWordで作らなくてもいいし、ポスターをExcelの格子に押し込める必要もない。PowerPointという第三の選択肢を、もう少し思い出してもらってもいいのではないか。そう願いながら、私は今日も教室で指導に当たる。いつか生徒やお客様から、「チラシをPowerPointで作りたいんです」そんな相談を受ける、その日を夢見て。
<エッセイ>
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