「大丈夫」は誰のもの? ~犬と虫から考える、私とあなたの当たり前~

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可愛いのに苦手なもの

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私は、犬が少しだけ苦手です。

でも、嫌いなのかと聞かれると、それもちょっと違います。

遠くから眺めている分には、可愛いと思います。テレビやインターネットで犬の動画が流れてくると、ついつい見てしまうこともあります。

千切れそうな勢いで尻尾を振りながら飼い主に飛びつく犬。気持ちよさそうに眠っている犬。マムシに噛まれて顔をパンパンに腫らした犬。

そのような姿を見ると、素直に可愛いと思いますし、癒されます。

ところが、実際に犬と触れ合える距離になると話が変わります。

犬に近づかれるのが怖いのです。

大型犬だから怖い、小型犬なら大丈夫、というわけでもありません。小型犬がとことこと可愛らしく近づいてきても、やっぱり怖い。尻尾をふりふりしながら、遊ぼう!とでも言いたげな姿はたまらなく可愛いのですが、近寄らないでほしいのです。

怯えている私を見て「この子は噛まないから大丈夫」と安心させてくれる飼い主さんもいます。その気持ちはありがたいのですが、噛まないなら大丈夫!とはなりません。噛む、噛まないで怖がっているわけではないからです。

目の前にいるのが犬だから怖いのです。

 

 

可愛いから好きなもの

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そんな私ですが、虫は少しだけ好きです。

どんな虫でも大好き、というわけではありません。部屋にGが出た日には、命がけで対処します。

一方で、ダンゴムシやヤスデのような、足がたくさんあってゆっくり動くタイプの虫は可愛いと思います。

ダンゴムシがちょこちょこ歩く姿は可愛いですし、ヤスデも、たくさんの足が波打つように動いて綺麗です。目もつぶらでチャーミングだったりします。

以前、巨大ヤスデと触れ合えるイベントがあり、頭の上に乗せてもらったことがあります。

同行者にも勧めてみました。「おとなしいから大丈夫」と声をかけましたが、返ってきたのは無理の一点張りでした。勿体ないな、と思いました。

これは、犬好きの人が私に感じていることと同じではないでしょうか。

 

 

同じものを見ているのに

私がヤスデを見て、可愛い、触りたいと思っているとき、他の人は、怖い、近づきたくないと思っているかもしれません。

犬も同じです。

犬好きの人が犬を見れば、触りたいと思うかもしれません。しかし私は、可愛いとは思うものの、近づきたくはありません。

見ているものは同じでも、感じ方は人によって違います。

 

 

あなたの当たり前、私の当たり前

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私たちは、自分が見ている世界を基準にして物事を考えています。

その結果、これくらいは普通だとか、これを怖がる人はいないだろうといった、小さな思い込みが生まれることがあります。

犬好きの人にとっては、犬が好きなのが当たり前。

虫嫌いの人にとっては、虫が嫌いなのが当たり前。

私にとっては、犬は少し苦手で、虫は少し好きなのが当たり前です。

同じ世界に生きていても、当たり前はそれぞれ違います。

自分が平気でも、相手はそうではないかもしれない。

その可能性を少し頭の片隅に置いておくだけでも、人との接し方は変わってくるような気がします。

そして、この「当たり前の違い」は、パソコンの世界でも同じです。

 

 

怖いパソコン

パソコンを日常的に使っている人にとって、クリックやダブルクリックは当たり前の動作かもしれません。

しかし、初めて触る人にとっては、

どのボタンを押せばいいのか。
間違えたら壊れないのか。
何が起こるのか。

そんなことも不安になります。

職業柄、パソコンを初めて触る方のお話を聞くことがありますが、よく耳にするのが「怖い」という言葉です。

壊してしまいそうで怖い。
知らない画面が出てきたら怖い。
個人情報がどこかへ送られそうで怖い。

そんなとき、私はつい、「大丈夫ですよ」と声をかけてしまいます。

でも考えてみれば、私自身、犬が近くにいる状況で大丈夫ですよと言われても、不安は消えません。私がヤスデを持って虫嫌いの人に近づき、大丈夫ですよと言ったところで、普通にぶん殴られます。

だとすれば、パソコンを怖がっている人に、ただ大丈夫と伝えるだけでは十分ではないのかもしれません。

大丈夫という言葉は便利です。

でも、その大丈夫は、いったい誰にとっての大丈夫なのでしょうか。

 

 

デジタルを学ぶ

大切なのは、その「怖い」の正体を一緒に探すことだと思います。

例えば、「このボタンを押しても大丈夫ですよ」だけではなく、「このボタンを押すと次の画面に進みます。間違えても戻れますよ」と伝えるように、大丈夫の理由が分かれば少し安心できます。

何が起きるのか分からないから怖いのであれば、何が起きるのかを知ればいい。間違えるのが怖いのであれば、戻し方を知ればいい。

分からないものを、少しずつ分かるものに変えていく。それが、デジタルを学ぶということなのかもしれません。

 

 

怖いに寄り添う

私がインストラクターとして大切にしたいのは、生徒の皆さんの不安に寄り添うことです。

パソコンは、仕組みや操作方法が分かれば、自分でコントロールできるようになります。そのためには、教える側も自分の「当たり前」をいったん横に置く必要があります。

どうして分からないのだろう、ではなく、「この人には、今、この画面がどんなふうに見えているのだろう」と考えてみる。

教える側には簡単な操作でも、学ぶ側にはいくつもの不安が重なっているのかもしれません。

 

 

終わりに

犬を怖がる私の感覚を、犬好きの人が完全に理解するのは難しいでしょう。私も、虫を怖がる人の感覚を、きっと完全には理解できません。

しかし、理解はできなくても、寄り添うことはできます。

自分にとっての「大丈夫」が、そのまま相手にとっての「大丈夫」になるとは限らない。

だからこそ、その人が見ている景色の中に少しだけ入って、一緒に進んでみる。

犬でも、虫でも、パソコンでも。
誰かと分かり合うことも、誰かに何かを教えることも。
案外そんなところから始まるのかもしれません。

<エッセイ>

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