「好きなことは?」
そう聞かれると、なぜだかすぐには答えられない。もちろんコーヒーが好きだし、毎朝飲むのは習慣になっている。でも、じゃあなぜ好きなのかと問われると、あまり具体的な理由は出てこない。豆の種類や産地に詳しいわけでもないし、淹れ方にこだわるほどでもない。味の違いを繊細に感じ取れるような舌を持っているわけでもない。ただ「落ち着くから」という曖昧な理由しか出てこないのだ。
ところが「嫌いなことは?」と聞かれると、面白いくらい言葉がスラスラ出てくる。嫌いな食べ物、嫌いな色、嫌いな匂い、嫌いな人のタイプ。こういうものは具体的に語れてしまう。きっと私は、好きなものを「好き」と表現するよりも、嫌いなものを「嫌だ」と切り捨てる方が性に合っているのだろう。
人間関係もそうだ。苦手だと感じた人や相性の悪い人とは、無理に仲良くしようとせず、できるだけ距離を置いてきた。表面上の付き合いはするけれど、プライベートまで関わることはしない。そうやって嫌いなものを避け続けると、不思議と残るのは居心地の良い人や場面だけになる。
ある日ふと思った。これって、パソコンの使い方にもそのまま当てはまるんじゃないか、と。
嫌いな作業を回避する工夫
仕事でパソコンを使っていると、「これだけは嫌だ」と思う作業に出会う。私にとっては、それが単純作業の繰り返しだ。
たとえば、Excelで複数のシートに同じ名前を何度も入力する作業。あるいは同じデータを別々の場所に繰り返し打ち込む作業。そんな時間があるなら授業の準備を進めたいし、新しい教材を作りたい。だからこそ、私はその「嫌だ」を技術で避けるようになった。
セル参照を使ったり、自動入力の仕組みを設定したり。ひとつ入力すれば必要なところに全部反映されるようにしてしまう。これで「嫌な作業」が消える。つまり「好きだから努力する」のではなく「嫌だから避けるために工夫する」という流れなのだ。
ショートカットキーや便利な裏技も同じだ。インストラクターという立場上、知っておいた方がいいのは当然だが、すべてを暗記しているわけじゃない。実際には「あれ、どうだったかな?」と検索して思い出すことの方が多い。無理に詰め込んでも忘れるものは忘れる。ならば「必要なときに調べる」で十分だと思っている。
こうして苦手な操作を無理に押し込むのではなく、自分にとって楽なやり方を選ぶ。毎日触れる道具だからこそ、気楽に扱える方がいい。それは人間関係と同じで、嫌いな人に無理して合わせるより、距離を置いた方が心が軽い。パソコンもまた、嫌な作業を排除するほど「味方」になってくれるのだ。
手書きは手間だから、デジタルに任せた
正直に言うと、私は手書きの文字が好きだったりする。自分の字は好きだが、仕事には不向きだと思う。そんな字を使って何度も何度も手書きするのは、正直手間だ。それに、文字を手書きするよりもパソコンで文字を入力した方が、明らかに早いのである。
だから自然と「全部デジタルにしてしまえ」となった。
スケジュール管理は手帳ではなくデジタルカレンダー。ちょっとしたメモもアプリに入力しておけば、あとから検索ですぐ見つかる。請求書や文書もフォーマットを作っておいて、必要なデータを入れれば完成。紙なら毎回最初から書かないといけないが、Excelなら検算も自動で済む。
これらは「紙よりデジタルが好きだから」選んだのではない。「手書きが手間だから」選んだのだ。手間を避けるためにデジタルに逃げた。結果として、時間の余裕が生まれ、授業を作ったりブログを書いたり、生徒さんと向き合う時間が増えた。手間を避けたことが、思わぬ形でプラスを生んだのである。
自動化は「嫌い」から生まれる
Excelの計算だってそうだ。電卓で検算するのは嫌だから関数を覚えた。もっと楽をしたいと思ってマクロやVBAに手を出した。最初の動機は「嫌だからやりたくない」だったが、その「逃げ道」が新しいスキルを学ぶきっかけになっている。
つまり、嫌いは逃げる理由でありながら、同時に前に進む理由にもなるのだ。
嫌いを起点に考える安心感
世の中では「好きなことを仕事にしよう」「好きなことから学ぼう」といった言葉がよく飛び交っている。もちろんそれが間違いだとは思わない。けれど、私自身の経験では「嫌いをどう避けるか」を起点にした方が安心できるし、長続きするように思う。
キーボード入力が苦手なら音声入力を使えばいい。メール文を書くのが嫌ならAIにひな形を作ってもらえばいい。計算が嫌なら自動計算シートを用意すればいい。嫌いを避ける方法は探せばいくらでもある。
大事なのは、ただ投げ出すのではなく「どうやって避けるか」を考えることだ。パソコンの場合、時間をかけて作った文書も、楽して作った文書も、完成したものは同じ文書。ならば、楽な方を選ぶに越したことはない。
嫌いを掘り下げると、価値観が見える
「嫌い」を突き詰めると、自分が本当に大事にしているものが浮かび上がってくる。
たとえば「繰り返し作業が嫌い」な人は自動化を工夫する。「ファイルが散らかるのが嫌い」な人は整理整頓を徹底する。嫌いをはっきり自覚している人ほど、自分に合った環境を作り出すのが上手だ。
だから嫌いは、わがままではなく「自分の基準を教えてくれるサイン」なのだと思う。
終わりに ― 嫌いを避けて残るもの
私は「好きなものを集める」のはあまり得意ではない。けれど「嫌いなものを避ける」ことは得意だ。そして避けた結果、残ったのは心地よいものばかりだった。パソコンとの付き合いも同じで、嫌な操作をひとつずつ遠ざけていったら、残ったのは快適な世界だった。
好きなことを語るより、嫌いなことを語る方が言葉に熱がこもる。だから、これからも私は「嫌い」を基準に生きていきたい。嫌いを避けるたびに残されるものこそ、私にとっての快適さだからだ。
そして、もし読んでいるあなたが「面倒だけどやらなきゃいけないパソコン作業」に悩んでいるなら、それを「嫌いを避けるための武器」に変えてほしいと思っている。自動化でも、デジタル化でも、工夫の形は何でもいい。もしそのお手伝いができるなら、私は喜んで力を貸したい。なぜなら、私が一番嫌いなものは「やればできるのに諦めてしまうこと」だからだ。
<エッセイ>
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