届かなくなった年賀状 ~年に一度の特別な繋がり~

すべての始まり

私がまだ鼻水を垂らしながらカブトムシを追い掛け回していたころ、近所の人に年賀状を送ってみよう、というイベントがありました。事前に許可を得た数十人の住所と名前のデータがランダムに配られ、その方宛てに年賀状を作成するというものです。
今のご時世ではなかなか考えられないイベントかもしれません。

私が受け取ったのは、ツネさん(仮名)という高齢の女性のデータでした。記載されている住所は私の家からあまり離れていませんでしたが、会ったこともなければ話したこともない相手です。というか、顔も分かりません。
正直なところ、私は少し困っていました。顔も知らない相手に、いきなり年賀状を書くというのは、思っていた以上に難しかったのです。
友達相手であれば、「あけおめことよろ」と書いて、あとは適当に好きなことを書けば済みます。しかし、相手は高齢の女性。しかも会ったこともない。どこまでくだけていいのかも分かりません。
結局私は、文章で悩むことを諦めて、イラストに逃げることにしました。当時はたしか酉年だったため、鶏やひよこのイラストを描いたり、シールを貼ったりしたのだと思います。申し訳程度の新年の挨拶を付け足せば、バッチリ完成です。その年賀状はまとめてポストに投函されました。

 

届いた年賀状

年明けから数日後、郵便受けにちぎり絵で彩られた絢爛豪華な年賀状が届きました。私の同級生はみんなツツジの花を毟って蜜を吸うような子ばかりだったので、年賀状の装丁は年齢相応。レイアウトにまで気を遣ってくれるのは祖父母や親せきしかいません。
宛名面を見るまでもなく分かりました。それはツネさんからのお返事だったのです。

そこには達筆な文字で感謝の気持ちが綴られていました。私への気遣いのためか、難しい漢字は一つも使われていませんでした。あのときの驚きは、今でもなんとなく覚えています。
自分が出した年賀状に対して、ちゃんと返事が返ってくる。それも、こんなに丁寧な形で。
子どもながらに、「知らない誰かとつながった」という不思議な感覚がありました。

 

 

年賀状で続く縁

その年から、私とツネさんはお互いに年賀状を送り合うようになりました。最初はイラストがメインだった年賀状も、いつしかお互いの近況を教え合うようになり、年に一度の文通のような感覚で楽しんでいました。

気が付けばはじめてのやりとりから数年が経過していました。このころ、私はスマートフォンを手に入れており、新年の挨拶は次第にLINEに移行していました。友達の半数以上はLINEで済ませるようになり、自宅に届く年賀状も少なくなりました。それでも私の住所録にはツネさんの名前が残っていて、ツネさんからの年賀状も毎年のように届きました。
LINEでのやり取りはとても便利で、思い立ったときにすぐ連絡が取れます。既読がつくことで安心もできますし、写真もすぐに共有できます。
それでも、ポストを開けるまで届いているかどうか分からない、あの少しの時間が、どこか楽しみでもありました。

 

直接会ったことのない相手

ツネさんはどんな人なのだろうと、疑問に思ったことがあります。年賀状に記載されている住所は、自転車で20分くらいの近場です。これだけ長い間年賀状のやり取りをしているのだから、直接挨拶しに行ってもいいのではないか、と思う自分と、さすがに家まで押しかけるのは迷惑じゃないか、と思う自分がいて、最終的に後者が勝ちました。単純に人見知りを発揮していた、というのもあります。
ツネさんは家族写真を年賀状に貼り付けてくれていたため、顔だけは分かっていました。とても優しそうな表情の女性でした。

こうして10年近く直接会うこともないまま、私とツネさんは年賀状のやり取りを続けました。

 

 

届かなくなった年賀状

しかし、今は、届きません。
いつ頃だったか、ツネさんからの年賀状がピタリと届かなくなりました。その翌年にも届かず、私は住所録からツネさんの名前を削除しました。
年賀状によって紡がれた縁は、こうして途切れてしまったのです。

あれからさらに数年が経ちました。今となっては年賀状を出すこともなくなり、新年の挨拶は親せきも含めてLINEで済ませるようになりました。年が明けた瞬間にメッセージを送って、終わりです。
元日に郵便受けを気にすることはなくなりました。

 

 

年賀状離れが進む世界

教室でも年賀状じまいをする方も増え、人々の年賀状離れの波は日に日に広がっています。2025年度の年賀状の発行枚数は前年度から約25%も減少したそうです。
今はLINEやメールで簡単にやり取りができる時代ですが、あのころのように、年に一度だけ届く年賀状というのも、特別だったのだと思います。

 

最後に

今でも、ふとしたときに思うことがあります。
もしあのとき、勇気を出して一度くらい会いに行っていたら、何か違っていたのだろうか、と。
もっとも、それは今だから思うことで、当時の自分にとっては、年に一度届く年賀状の距離感がちょうどよかったのかもしれません。

あれから何年もの月日が流れましたが、お正月の時期になると今でも、ツネさんのことを思い出すのです。

<エッセイ>


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