ワンクリックの哀愁~詐欺の恐怖と認知の歪み~

インターネットの危険性

パソコンやスマートフォンが一般家庭に普及し始めてから早数十年。我々人間の生活にはなくてはならない必需品になりました。

仕事に趣味に学校に、あらゆる場面でパソコンやスマートフォンは使用されています。小学生、あるいは未就学児がパソコンやタブレット、スマートフォンを手足のように使いこなしている姿を見かけると、こういった電子機器は人間の生活に根差しているのだと改めて実感します。

しかし、インターネットの危険性についてはどの程度周知されているのでしょうか?

最近では大手ビール会社や大手通販会社のシステムがランサムウェアの被害に遭い、甚大な影響を受けました。コンピュータに任せていた業務を手作業で行うのは非常に大変で、時間もコストもかかります。

例に挙げたのはランサムウェアの被害ですが、インターネットにはたくさんの脅威が潜んでいます。ワンクリック詐欺、フィッシング詐欺、マルウェア、不正アクセス、アカウント乗っ取り……口にするのも恐ろしいですよね。そして、これらの被害に遭う可能性は、企業だけではなくインターネットを利用しているすべての一般家庭にもあります。

インターネットの危険性について考える時、私はいつも一つの出来事を思い出します。

幼き日の過ち

まだ虫を手づかみし、無駄に高い場所から飛び降りて怪我をし、野良猫からキャットフードを奪って食べていた幼いころのことです。その日は両親が家におらず、私は一人で留守番をしていました。

当時はノートパソコンがリビングに一台置いてあって、時々Flashゲームで遊んでいました。その日も暇だったので何気なくなくパソコンの電源をつけたのですが、Flashゲームをする気分ではなく、好きなゲームについて調べようとネットサーフィンをしていました。

無心で画面をクリックしていたその時です。

突然画面上に警告のダイアログボックスが表示され、パソコンからはブザー音が鳴り響きました。驚いてダイアログボックスを閉じようとしましたが、閉じるボタンがどこにも見当たりません。ダイアログボックスには金銭を要求するメッセージが延々と表示され続けています。

典型的なワンクリック詐欺に引っかかってしまったのです。

詐欺相手との会話

しかし当時の私はワンクリック詐欺という言葉を知りませんでした。自分が何か悪いことをしてしまったのだろうと泣きそうになりながら、画面に表示されている電話番号に電話をかけてしまったのです。
ちなみにこの行為は非常に危険ですので、皆さまは絶対に真似しないでくださいね。

電話の相手は若い男性でした。
「何もしていないのに突然画面がおかしくなった」と話すと、「何もしていないはずはない。あなたにはお金を支払う義務がある。支払えないのであれば警察を呼ぶ」といった内容の返事がありました。口調はマイルドにしていますが、かなり高圧的だったのを覚えています。

警察沙汰になる、という状況に私はパニックになりました。
このことが両親に知られれば怒られるどころじゃすまないかもしれない。どうにかして両親が帰ってくるまでにこの問題を解決しなければならないと考えた私は、考えられる中で最も避けなければならない方法を選びました。
それはすべてを正直に話すこと、です。

私は受話器を握る手に力を込め、震える声で告げました。
「私は未成年です。お金は払えません。どうしたらいいですか」

相手の男は言いました。
「親は近くにいないのか?」

私は答えました。
「いません」

電話をかけてしまっただけではなく、個人情報を話してしまうのは悪手中の悪手です。皆さまは同じ状況に陥ったとしても、絶対にこんなことはしないでくださいね。

しかし男は初めて口ごもりました。
私が未成年であることなどから、騒ぎが大きくなることを危惧したのかもしれません。本当に警察沙汰になった場合、困るのは私ではなくその男なのですから。

少しの時間が経って、男は諦めたように言いました。
「今回は許してやる」

そこで一方的に電話は切れました。
その後の記憶は曖昧ですが、気が付くと金銭要求のダイアログボックスは消えていました。
その後両親にすべてを話した私はこってり絞られ、しばらくパソコン禁止令が出されました。この時になってようやく、あれは詐欺だったのだと知りました。

人の心を弄ぶもの

考えられる中で最悪の道を選び続けていたにも関わらず被害が出なかったのは、ただ単に運が良かっただけです。

詐欺の業者はこちら側に非があるように誘導し、金銭を支払う名目を無理矢理作り出そうとします。特にワンクリック詐欺などは操作中に突然画面が切り替わるので、自分が何かしてしまったのでは?と考えてしまいがちです。

そういった心の隙をついてくるのが、詐欺なのです。

そして危ういのは、金銭要求のダイアログボックスが削除されたことに対して、私は電話相手の男に感謝の気持ちを少なからず抱いていたという所です。「困っていたところを助けてくれた」とか「未成年だったから優しくしてくれたのかも」とか、そんな夢見がちなことばかり考えていました。

終わりに

その男は良い人でもなければ、私に対して温情を見せたわけでもないでしょう。きっと面倒ごとを避けたいがために、適当にあしらって逃げたにすぎません。

あの時、何か一つでも掛け違えていたらどのような結末になっていたのでしょうか。

考えるだけでも恐ろしいです。

<エッセイ>


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